南極大紀行


今シーズンの南極気球は、BESS(べす)と CREAM(くりーむ)という
二つの実験が予定され、準備が進められています。
ここでは、私自身が参加しているBESS実験についてご紹介しましょう。


BESS は Balloon-borne Experiment with a Superconducting Spectrometer
(超伝導スペクトロメータを用いた気球実験) の略称で、宇宙線の観測を通して
『宇宙における素粒子現象』を調べることを目的としています。
BESSは1987年に提案され、1993年以降ほぼ毎年、カナダなどで通算9回の
気球実験を行なってきました。観測機器を大幅にリニューアルして臨んでいる
今回の南極実験を、特に「BESS-Polar(べすぽーらー)」と呼んでいます。

宇宙線とは宇宙から飛んでくる小さな粒子です。宇宙線は私たちの身体を毎秒100個も突き抜けている
のですが、その大半は宇宙からやって来たものが地球の大気と反応して別の種類に化けてしまったもの
です。気球を使って高空で観測することで、宇宙からの情報をより直接的に得ることができます。
私たちは様々な種類の宇宙線を観測しますが、とりわけ注目しているのは
稀少な「反粒子」たちです。とりわけ「反陽子」は、私たちのこれまでの観測
によって その起源が少しずつ明らかになってきている一方で、ダークマター
や ホーキング博士の唱える原始ブラックホールの蒸発などの未知の現象
から生み出せれている可能性もあります。今回 エネルギーが特に低い反陽
子を観測することで 未知の起源の兆候をつかむ事ができるかもしれません。
地球が大きな「磁石」である関係上、磁極に近いカナダや南極は低いエネル
ギーの宇宙線観測に適しています。
これまでに一例も観測されたことが無い「反物質」の探索も行ないます。
もし宇宙線反物質が発見されれば、「物質」で形成されている私たちの世界と
は異なる「反物質銀河」が遠い宇宙のどこかに存在している証拠になるかも
しれません。カナダでの気球実験は観測時間が 1〜2日間に限られていまし
たが、南極では約10日間という より長い時間の観測が行なえるので、この
ような稀有な粒子を高い感度で探査することができます。
このほか、陽子やヘリウムなどの他の色々な宇宙線も同時に測定します。
これらを精度良く測ることは宇宙線の基礎データとして非常に重要で、これま
でにBESSで得られた結果は、例えばスーパーカミオカンデのニュートリノ振動
の解析計算にも利用されています。

雑誌「ニュートン」
1999年11月号より

ホーキング博士



BESS-Polar測定器です。
超伝導磁石と様々な粒子
検出器から構成されています。
これで宇宙線を識別します。

測定器に電力を供給する
太陽電池です。ちなみに
現在、ここ(南極)は白夜です。



超伝導磁石のコイルを
冷やすための液体ヘリウム
を扱っている作業風景です。

先日12月3日に総合リハーサルを実施
しました。実際にクレーンで吊り、手順を
確認します。また、測定器の状態をモニ
ターでチェックします。(皆 厚着をしてい
ますが、普段は室内は寒くありません。)
BESSは日米共同国際実験です。日本か
らは宇宙研のほか 東京大学・神戸大学・
高エネルギー加速器研究機構が、また、
アメリカからはNASA/GSFCやメリーランド
大学が参加しています。この南極遠征には
(途中で多少の増減はありますが)約10人
が常時参加しています。

BESS実験についてもっと詳しく知りたい方はこちらをご覧下さい。